厳かな菩薩の舞
ずっと気になってる場所がありました。「糸崎の仏舞」って祭りが執り行なわれている、越前海岸の糸崎集落にある糸崎寺です。仏のお面を被って舞うんです。地図で見ると集落の中にあるんですが、鳥居あるし、近しいけどここじゃなさそうな…。で、ぐるぐる細い道を回ってみると、空が開けた場所が。越前海岸って、海と山が迫り来る場所ってイメージを持っている人が多いんですが、実は見えないところに田んぼや畑が広がってるんです。基本的に地元の人が利用する道でも、風景がまたキレイなんですよ。主要な道だけでは見つからない、越前海岸の隠れたスポットです。
結局回ってみて、ここじゃね? って場所を見つけたらビンゴ。きちんと舞台も作られていて、確かにここでした。国の重要無形民俗文化財に指定されてるこの舞は、観音菩薩の舞を由来としていて、8世紀から1300年続くとされている厳かなもの。今年開催の予定なので見に来たいです。4月18日って、日程も決まってます。で、近しいけど違うって思ってた場所は参道の入り口でした。糸崎寺のすぐ横に神社がありまして、鳥居はその鳥居だったようです。
人を呼び込む人が作る、体が喜ぶランチ
で、ランチはここで、って決めてたのが『志野製塩所』。長崎生まれ千葉育ち、縁あって福井に移住した百姓・志野佑介くんのお店です。百姓って、言葉通り“百の仕事をこなす人”っていうくらい、生きるための生産を日々してる人を指してて、まさにその言葉が似合うくらいいろんなことをしてます。その生き方に共感する人の多いこと。彼の周りにはいつも人がいます。うらやましいくらい、人が集まるんです。
で、食べたのは卵かけごはん。お米も卵も、野菜も塩も、全部手作り。野菜は体に沁みるって言葉が本当に合うくらい、何も必要なく、塩だけでこんなに美味しく食べられるし、食べ飽きないくらいです。卵も走り回って健康な鶏が産み落とすから、色は薄くても濃い味わい。もうバクバク行っちゃいます。
志野くんとはゆっくり話したかったので、ちょうどお客さんも切れたタイミングだったし、いろいろ話してました。面白かったのが、この界隈の話。実は各集落で毎年神楽が奉納されているそうなんです。それも全部同じ日に。だから他の集落がどんな神楽をしているか、それぞれの集落の人たちは見たことがないのだとか。彼は移住してきたのでいくつも見て回ってその違いを教えてくれました。大道芸のようなアクロバティックなものから、30分もの長尺のをいくつも演じるのとか。毎年開催されるそうで、観光目的でもなく、集落の行事として執り行なわれているみたいです。その情報は知らなかった…。「こういう行事が若い人が引き継ぐことで集落から人がいなくならないんだと思います」。
そうなんです。祭りって、単なるイベントではなく、地元の吸引力でもあると思うんです。繋げることで人が繋がるというか。例えば例祭とかは本当は何月何日って決められているのが慣習としてあります。それは昔の人たちの生活と、それに伴う意識が決めていったことです。しかしライフスタイルの変化や働き方の変化によってそれが難しくなっていきます。となると、日程もみんなが休みやすいように土日に、みたいになるんです。そうなってしまうと、伝統行事からイベントに変化してしまい、結果吸引力が無くなって人が離れていくような気がするんです。それこそ三国祭りとか、高浜の七年祭とかは、日程が最優先で、ライフスタイルがいくら変わろうとも学校も仕事も休みにするくらいの気概が町にあります。だから人は繋がっていく、そんな感覚を持っています。民俗学が好きだからでしょうね。この感覚、昔修士論文提出時に教授から「その考え方は民俗学じゃない」って一蹴されましたけど…。ま、これはまたおいおいに。
伝説だらけの花の名は…!?
さて。この時期の越前海岸といえば、見逃してはいけない水仙の花。県の花だし見慣れてるとは言いつつも、実際にこの場所に来て見たことがあるか、と言われれば見たことがなかったです。旧越廼村から越前町までずずーっと広がる水仙の畑。国道から離れて山に向かって上っていくと、それぞれの場所に水仙推しなスポットがあります。旧越廼の水仙ドーム、越前町の水仙ランド、そして梨子ケ平の千枚田水仙園。全部見て回りました。どれ一つとも49年生きてきて行ったことない…。
旧越廼の水仙ドームよりも興味を引いたのは「越廼ふるさと資料館」のほう。各集落でそれぞれの生活があったことを紹介してますが、北前船を持っていた集落もありました。そうだよね、確か旧越廼も北前船がある、って聞いたことがあったから、確信持ててよかったです。あと、ゾウとサイがここにいたって話。信じられないけど、実際にいたらしいです。いうても1650万年前のことですが…。
それ以上に、一番興味を引いたのは「あっぽっしゃ」。わかんないでしょ(笑) いや、自分もわかんない(笑) ただ、鬼の面で各家を回るってことでナマハゲに近いものだな、ってことはわかったけど、「あっぽっしゃ」の意味が何を指してるかさえわかんなかった(汗) 調べました。通訳すると「丸餅欲しい」だそうです。方言って難しいですねぇ。
由来は食べ物を求めに来た異人では、ってことらしく、となれば日本海側で点在するこのような奇祭は、まさしく海からやってきた異人の名残じゃないだろか、って考えます。ただでさえ朝鮮半島から風だけを頼りに船を出すと、福井に着きますからね。福井の人はよく見ると思います。海岸に打ち捨てられたゴミのほとんどがハングル語だってこと。となると、この福井弁もまた、海を越えてやってきたんだろうな、って思ってます。韓国語、特にソウル弁と福井弁はイントネーションが瓜二つですから。このイントネーション、日本中探してもないですから。
水仙に戻ります(笑) 水仙って、世界中の文献を見てると最初に登場するのが紀元前1500年前だってこと。地中海沿岸だったり福建省だったり、暖かい場所で群生してるのに、日本だけは海からの風が吹きすさぶ越前海岸の冬、って、それだけで「?」な話です。ギリシャ神話にも登場してます。英語名はまさしくギリシャ神話から取ってますから。ナルシッスス。そうです、自分大好きナルシストの語源です。池に写った自分の顔を見て美しいと、自分のものにしたいと池に突っ込んで帰ってこなくなったナルシストの話。落ちたところに咲いたのが水仙、っちゅうことらしいです。
神話はあくまでも神話。越前水仙はここだけで伝説があるんです。今から800年ほど前にこの地に住んでいた兄弟が同じ女性を好きになって争ってしまったことから、自分のせいだと海に見投げしてしまい、その後この地区に咲き始めた花が水仙、って、ざくっというとこんな伝説。この話を裏付ける証拠はまだ出てきてないですが、やっぱりここでもなんや、って二度目の三角関係の話でした(笑)
とにもかくにも、日本での水仙が最初に文献に出てきたのが福井らしく、それは胸を張って日本水仙は福井発ですよ、って言えます。確かにこんなに群生してるのは他にはないでしょう。もはや雑草レベルで山全体が水仙ですから。でもって、香りがいいこと。もうそれだけで満足です。今しか見れないので是非香りとともに楽しんでください。
落人伝説の村に城!?
で、ここら辺の裏道を走ってたら、明らかに落人集落だろう、って思わせる集落が目の前に現れました。どんな生活してるんだろうって思いを馳せて近づいていったら、そこにはお城が!! 城!? こんな山中に!? 思わず行ってみましたよ。
いやー、城です(笑) でも城ではなく美術館でした。地元の人に聞いてみました。この集落の方が建てられたそうなんですが、その方々はもうこの集落におらず、開かずの美術館になっているそうです。開かないならなおさら見てみたい…。刀とか展示してるらしいです。落人伝説、というか伝説じゃないですよね、落人の歴史を持つこの集落の祖先は、やはり源平合戦のときのことですから、刀って、源平合戦時代のもの!? 帰ってこないかなぁ…。
海に沈む夕陽を見ながらカニ!
そして日が暮れる頃、やっと今日のお宿に到着しました。三国から下ってくると、やっぱり長いわー。南越前町にある『さへい』さん。ピンクの外観がひときわ目立ってます。ここら辺は土地が少なく、結果縦長に細長い造りになります。最上階がお風呂と、海を一望できる最高の癒しスポット。さらに屋上も出られるので、夕陽が沈む瞬間をパノラマで見ることができます。
でも、この宿の本領発揮はここじゃあない。ごはんです。ヤバいです。本気でヤバいです。どんだけ出てくるねん、っていうくらい、カニが押し寄せて来ます(笑)
もう時期が終わったのに、こんなに立派な茹でズワイガニが1杯(カニの数えかたは杯です)、焼きガニが半身、刺身が半身、セイコ(メスのカニの呼び方です)の釜飯と鍋、さらにカニグラタン。つーことは、ズワイ2杯とセイコ1杯!? マジ? これで一人前? どんだけのおもてなしよ! 半端ないです。本気で押し寄せてきました。「これは持ち帰りたい、って途中でギブアップする人が多いですよ」、って、中国人の満漢全席よろしくカニフルバージョン! こりゃリピーター多いのわかりますわ。「うちのお父さんは漁師だから、凝った装飾とかはできないけど、民宿だからたくさん食べてもらおうって」。女将さん、“たくさん”の範疇超えてますよ…。いくつも出してもらった中で一番好きなのはやっぱり茹で。2時間食べ続け、お腹が収まるのに7時間かかったわ…。やっと寝れそう…。
<急>へつづく