愛おしく、美しいもの

ありえない制作陣

勝山左義長まつりの風景です

2022年福井県文化課の事業としてスタートした、「福井の方言愛着ましましプロジェクト」。これは方言をみんなで使おうというプロジェクトで、高校生と一緒に方言辞典を作ったり、TシャツデザインやLINEスタンプデザインのコンペをしたり、その一環として映画『福井のおと』(仮)の製作が始まりました。

実は、元々短編映画の予定だったんです。だけど、短編では表だって出ていける場所がない、というのがあります。実際に短編映画は尺の関係上、劇場公開がとても難しいし、下手するとイベントでの公開だけに終わってしまうともったいない、と。そもそも今回映画を作る意味は、方言という福井の文化を外に、かつ残るように発信していくことでしたから、長編を提案してくれた片山享くんと一緒に県庁に出向き、長編映画にしましょう、と、プロジェクトはスタートします。

小浜市三丁町にて

が、最大の問題が現れます。それは「予算がない」。短編用の予算しか取っておらず、さあ困った…。映画にしても仕事にしても、一番費用がかさむのは人件費、そして交通宿泊費。いかにここを抑えられるかがこの映画にかかってくるわけです。結果、制作スタッフは最大6人、最小では3人という、普通ならばあり得ない、そんな無茶やで、って布陣。多分映画関係者からしたら「なめとんのか!」って言われそうなくらい…。

そしてもう一つ、県内各地で撮影をするので、各地での多大な協力を必要としたこと。限られた時間、限られた人数でコトを成すには最短距離で向かわなければなりません。だから、これまでのコネクションをフル活用した感じでした。各地の方々には本当にお世話になりました。福井の情報誌『月刊ウララ』の編集に携わってきて良かった、と、つくづく感じた一年でした。

人の思いが滲み出る映画

この映画は各地の方言も一つの“音”と捉え、それぞれの街に流れる、それぞれの街にしかない“音”と共に生きる人たちを描いています。だから、観賞すると感じるのですが、その街にいるような気持ちになります。自分の目指す“旅”のあり方、人の営みの中にいるような、そんな映画になりました。

地域発映画とかドラマ、と言うと、悪く言うつもりはないですけど、どうしても観光地を映して、ベタな脚本になりがちというか。地方に行って(もしくは住んでいて)挫折したり、マイナスなこと考えたり、でも人と出会って街の魅力を知り、新しい光が見えて「やっぱりこの街はいいね」で終わるような。

今回の映画には、そういうコンセプトはまったくありません。登場する人たちは、都会に出たいとか、この街は何もないとか、そんなマイナス思考の持ち主ではなく、この街に住んでいることが当たり前というか、そんな感覚です。だって、登場人物のほとんどがその街に実際に住んでいる人たちだから。そうなんです、地元の人たちの生活そのままを切り取っているんです。

この仕事をしていて感じてることがあります。人は皆、ドラマがある、と。もちろん、誰しも自分の人生がドラマだなんて考えていません。目の前に起きたことに考え、行動しているとしか思っていません。その連続が人生なのだし、人生を演じている、なんて考えている人はいません。

ただ、その人が考え行動する“人生”は、その人にしかないものであり、他人から見るとそれは充分にドラマになっているんです。それは、10000人を超える取材を通じて感じ得たもの。だからいつもいろんな人を取材していてドラマになるなぁ、と思って書き続けています。まあ、会社の人からは「ポエマーやなぁ」って言われるけど(笑)

アクション映画みたいに起伏の激しい人生を歩んでいる人はそうそういませんて。それはあくまでもフィクションの中の物語であって、隣にいる人のような、その街に住んでいるから感じるような、そんな人生にこそ、ドラマってあるんだと思います。

それを上手く、本当に上手く書き上げたのが、脚本監督を務めた片山享くんです。初めて脚本監督を務めた短編『いっちょらい』は、すぐに評価されてはままつ映画祭や、ながおか映画祭で上映され、ながおか映画祭では準グランプリまで受賞しました。

翌年には福井を舞台にした初の長編映画『轟音』を撮って海外の映画祭でも上映されたり、2020年にはこれまた福井を舞台にした、短編のリビルドともなる、長編『いっちょらい』を撮って、さらに一年に5本も映画を撮るなど監督としての評価が日増しに上がっている感じです。そして2022年の『福井のおと』(仮)。よく考えれば2年おきに一緒に福井で長編撮ってることになるな…。

福井市の農道にて

とても愛おしく、とても美しい

ある意味今回の映画はいろんなものが初めてでした。まず、福井市以外での撮影が多いこと。小浜市、敦賀市、南越前町河野、勝山市、そして福井市。いろんな街の風景、いろんな街の音、いろんな街の人の思い、願いを切り取っています。

取材で何度も訪れている場所ばかりでしたが、滞在するというのは初めてのこと。そうするとよりいろんなものが見えてきます。滞在するということは、通常車でのみの移動になりますが、徒歩での移動も入ってきます。そうすると、こんな店があったんや、とか、ここからの風景はこんな感じで見えるんや、とか、こんな音が聞こえるんや、とか、こんな人がいるんや、とか。情報収集は足で稼ぐ、ということをよく感じる一年でした。

そしてそして、地元の人たちと一緒に作るということは、地元の人たちと深く交流していくことになりますから、よりその街に愛着が湧いてきます。ホント、どの街も住みたいなぁと思うくらい、それぞれの街の人と“一緒にいたい”と思うくらい、人に親しみを感じました。

なぜなら、今回出会った人たちは全員、自分の街が好きだということが滲み出ているからです。登場する地元の人たちは、自分の住む街にある文化、歴史を紡ぎ続けています。それを強制的にされているものではなく、自発的にしているから、なおさら自分たちの街のことを知り、考え、行動しています。

だから、その営みをレンズを通して見ていると、とても愛おしいと感じるんです。愛おしくて美しい、そんな映画になったと思っています。今までに見たことのない映画になったと思っています。その街にいるかのような、暮らしているような映画になったと思っています。

完成した暁には試写会を開催していきます。各市町にて短編版を、福井市にて一つにした長編を上映予定です。ただ、ほぼ関係者向けに、ということになるので、いうたらその方だけで会場がいっぱいになるというくらいですわ。一般の方に見ていただくには来年の劇場公開を待っていただくことになるのかな、とは思います。

とにかく一年間、この映画に関わってくださった地域の多くの皆さん、制作スタッフのみなさん、そしてクラウドファンディングに出資してくださった皆さん、本当にありがとうございました。今年は完成させて国内外の映画祭に出品を予定しています。もし! もし! 本当にもし! どこかの映画祭にノミネートされた暁には、またご連絡いたします。

河野漁港にて

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