何かと話題の『ラストマイル』。大手EC物流センターを舞台にした映画なんですが、何か既視感のようなものを感じていました。
あーそうか、昔読んだ小説と舞台設定や犯人像が似ているんだ、と。楡周平『バルス』。同じように大手EC物流センターで荷物が燃えて、物流がストップして、犯人は“社会的弱者”な存在。結構前半くらいで犯人はわかっちゃうんですが、『ラストマイル』は半分以降でしたね。ちゃんと全部の伏線を回収していった感じがして、まあまあ『アンナチュラル』とか『MIU404』とかの登場人物もうすーく絡んでいった感でした。
でも、この映画を通じて率直に思ったのは、そもそも使う方ではないですが、やっぱECサイトは使いたくないな、と(笑)。物欲の塊的な、承認欲求の塊的な、そしてお金最優先の塊的な、そんな歯車の中にいる自分を思ったとき、何か気持ち悪い感触を得ました。きっと制作側もそうなんじゃないかとも思ったんですが、現代社会に対して痛烈に批判というか、そんな感じがしました。
タイトルの「ラストマイル」って、映画の中で誰が言った言葉かというと、物流の最後の最後、下請けの下請けの小さな宅配便のおじいさんです。かつて自分の仕事に誇りを持っていたけれども、時代は変わって富が物流を押さえたところに集中することになって。その大きな歯車の中に国民全体が取り込まれていって、仕事への誇りさえも失くしてしまっている空気を、「それでいいんですか、日本は?」と言っているような気がしました。だからタイトルにもしているんだよなぁ、って。
そして登場人物にもある種の気持ち悪さを、共感できない価値観を覚えました。人が死んでも自分の業績を、会社の売上を優先する。もう歯車から抜け出せない、歯車にいることが正しいと思っている価値観を、これでもかと突き付けている脚本。最後の最後で会社と妥協点を見出しても、その恩恵は微々たるもの。会社に「損害」と言わせたセリフが皮肉ってるなぁ、って。伏線中の伏線である洗濯機メーカーの話って、もうほんと日本企業へのメッセージな感じでした。
観た人はきっと思うでしょう。あぁ、なんかこの歯車の中にいる感じだって。でも歯車を抜けることもできずに日々を過ごしているって。違和感を感じて飛び出しても、何もないかもしれないし、何かあるかもしれないし。それでも飛び出すってとても勇気のいることで、一握りの人しか踏み出せなかったりもするけれど。もちろん飛び出さない勇気だってあるし、飛び出すことが正解ではないけれど、でも、「それでもあなたはいいですか?」と突き付けているような、そんな感覚を覚えました。
テーマソングの米津玄師『がらくた』も、最初の曲がボツになってこの曲になったそうですが、がらくたという言葉がラストマイルというタイトルと同様、映画自体のメッセージになっているよなぁ、と自分なりに感じました。
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