永平寺でお話を聞く
今年ですね、永平寺との関わりもありまして、永平寺の老師の皆さんにお話を聞く機会があったんです。ずっと前からお話を聞いてみたいと思ってまして、ついに来たか、と、ワクワクしてました。
もうね、取材してると老師の方から「趣味な感じで聞いてません(笑)?」と聞かれるほどで。そりゃそうだ、ずっと聞きたかったことばっかりだったから。こんな機会は滅多にない、なんと言われようが聞きたいものは聞く、ってな感じで笑いの絶えない取材時間でした。2日間合わせて5時間。もうあっという間な時間でした。
でね、この取材にあたって読んでおきたいな、と思ってた本がありました。それが、
です。古舘伊知郎さんと、宗教学者の佐々木閑さんの対談なんですが、まぁ面白い。
伝えるのはお釈迦様の教え
ちなみに。仏教の本ってことで、宗教の話だと思うでしょ? 違うんですよ。そもそも仏教って使い出したのは明治期らしく、それまでは仏道と言ってたみたいです。で、この中で話してる仏教ってのは、その字の如く「お釈迦様の教え」ってことで。
じゃあ仏教ちゃうの? って思われがちですが、ちょっとニュアンス違うんですよね。日本人がイメージする仏教って、鎌倉新仏教と呼ばれる浄土宗、浄土真宗、日蓮宗、曹洞宗、臨済宗、時宗だと思いますが、それってお釈迦様の教えをすごーく簡潔に伝えた教えなんです。唱えるだけでいい、信じるだけでいい、って。
でもそれが定着したのは、それだけ日本中が武士の世の中になって争いが絶えずに心身ともに疲弊していたからなんです。鎌倉新仏教を悪いとは言っていません。自分たちの祖先たちの、声なき声から生まれたものなんですから。それを否定したら自分の祖先、ひいては自分も否定してしまうことになりますしね。
宗教の本質を考えた
昔、大学院のときに宗教を少しだけかじったことがあるんですが、そのとき思ったのが、キリスト教もイスラム教も仏教も、最初の最初、イエスキリスト、預言者ムハンマド、そしてゴータマ・シッダールタ、彼らの言っていたことってほぼ一緒なんだよなぁ、ってことです。すごーく簡単に言うと、
人として正しく生きようよ
ってことで。
身も蓋もない感じですし、「んなわけあるかい!」と言われるでしょうけど、でも、彼ら3人は聖書も経典も記していません。それらは後世の人たちが作っただけで、今それがすべてだ、とこっちに言ってきても…ねぇ。
所詮、宗教ってのもぶっちゃけて言えば、人間が組織化するにあたって編み出した妄想ですし、聖書も経典も同じこと。大学院の時代に鬼の研究してましたけど、天国も地獄も、やっぱり人間の妄想の産物。言っておきますが、妄想が悪い、とは言ってません。妄想(想像力)があったから、人間は今こんなに発展してるんですしね。
ここで言いたいのは、あらゆる宗教が間違ってるとかってことではなく、原点に戻ってお釈迦様の行動から今の人生を考えてみようよ、ってことなんです。この本はそういう本です。
県民に読んでほしい理由
で、なんで全県民に読んでほしいってかというと、この本で語っているのがお釈迦様の考えを後世に体現したのが道元禅師だった、ってことだからです。
道元禅師と言えば永平寺を建立した日本曹洞宗の開祖。福井県を代表するお寺です。でも、多くの人にとっては観光地の一つとしか捉えていないんですよ。もちろん修行道場である、というのを知ってる人も多いですが、全体から見たらほんの一部。まぁ、福井県民なら知っていると期待していますが…。
スティーブジョブズが禅の心を感じ取りたく永平寺に来たかったということから、世界中が永平寺に向かってやってきています。その受け皿である福井県はせめて、道元禅師が伝えた禅の心を持っていてほしいと切に願っています。それが結果的に、世界中から永平寺=福井県の名を知らしめることになるので、もう一つ先の「やっぱり福井県は禅の心を持つ美しい街」と評価されることを目指したいと思ったんです。それが福井県民に読んでほしい理由です。
修行の先はない
永平寺にいるお坊さんは皆、皆さんが観光しているその瞬間も修行しているんです。修行というと坐禅を組んでいるイメージがありますが、道元禅師が伝えたのは「日々の暮らしすべてが修行である」ということ。顔を洗うのも、トイレに行くのも、お風呂に入るのも、ごはんを食べるのも、みんな修行。ついでに言ってしまえば観光客をおもてなしするのもまた修行だったりします。
じゃあ修行の先に何があるの? と聞く人もいるでしょう。例えば坐禅体験に訪れる人は心を落ち着かせるためだ、とか、アイデアを閃かせるためだ、とか、言う人もいるでしょう。
そうじゃないんです。坐禅を組むことに実は意味はないそうです。何かを目的としてはいけない、と言っています。目的とはその人の「欲」です。〜したい、〜がほしい、〜ありたい、人はいろんな欲を持って生きています。でもその欲を前面に出して生きていると、死ぬまで欲にまみれて自分を見失って死んでいくんです。
お釈迦様はその欲を断ち切ろうと苦行に励みました。でもいくらやっても断ち切ることができない。何故かと言うと、欲を断ち切りたいという欲があったから。つまり、目的を持って修行をしても、永遠に修行は始まらない、それどころか、さっきも書いた通り欲にまみれて自分を見失っていったんですね。
で、最後に坐禅に辿り着き、この世界は「縁起」だと、悟りを開くんです。お釈迦様が坐禅を組んだということはつまり、坐禅は禅宗だけのものではないということ。すべての宗派に坐禅は存在します。近くのお寺でも坐禅は組めるんですよ。一度聞いてみてください。ただ、目的のある坐禅は坐禅じゃないです。それだけ言っておきます。
欲をコントロール
お釈迦様も人間でした。欲にまみれて生きてきた一人の人間でした。でも、人間というのは欲があって当たり前なんです。欲のない人は一人もいません。だってお腹空いたらごはん食べたいでしょ? 眠くなったら寝たいでしょ? チョメチョメしたいと女の子にアタックするでしょ(笑)? それも欲です。
でも、欲しい欲しいと求めて修行していくうちに、求めないのがいいんじゃないの? ってことに気付くわけです。かのスティーブジョブズも求めるから求めないに辿り着き、iPhoneが生まれたわけですよ。永平寺のお坊さんも皆、一所懸命、永平寺の方々の言う「一行三昧」を日々行なっているだけです。そこで、自分の欲の醜さに気付くそうなんです。お腹空いて人のものも食べたくなる自分がいる、と。そんな卑しいのか自分は、と。そこが修行の始まりなのだそうです。
ここでの修行は決して欲を断つ、ということではありません。~したい、でもその欲を断ちたい。これって、仏教では「分別」と呼んで、人間の迷いの根源なんだそうです。だから欲を排除するというのはやはり迷いから抜け出せていないということ。排除ではなく「和合」。
わかりやすい例えを教えてもらいました。ここに一本の木があります。幹から枝がいくつも成長していきますが、それぞれが好き勝手に伸びていくけれど他の枝とはぶつからずに一つの木になって行きますよね。これです。枝は大きくなりたいという欲です。でもその欲をぶつからずに大きくなる。人間も同じことで、欲はあるもの。しかしそれをコントロールすることで大きく成長する、ということです。
我欲が諸悪の根源
お金が欲しい、名誉が欲しい、知名度が欲しい、まぁほとんどの人の社会的欲はこの3つでしょう。欲しがるから嫉妬するのであって、欲しがるから争うのであって、欲しがるから悩むのであって。それで自分を見失っていませんか?
ちょっとキツい言い方かもしれませんが、鬱というのもその悩みの一つに過ぎないと、自分は考えています。自分を知ってほしい、認めて欲しい、讃えて欲しい、許して欲しい、慰めて欲しい、そのどれもが満たされなく、求めようと自分を見失っている、そう思います。
以上、書き連ねた欲とは、自分自身だけの欲、つまり「我欲」なわけです。そして、これほどたちの悪いものはないんですね。我欲って、自分の都合だけなんですよ。人のことなんかどーでもいい。人が死のうが、苦しもうが、悩もうが、どーでもいい。自分さえ良ければそれでいい。
その結果、どうなると思いますか? 人を苦しめた分、全部自分に帰ってきます。いわゆる「因果応報」ですね。相手が自分に対して嫌な態度を示しているのは、自分が嫌な態度を示しているから。自分のことだけを考えている人は、相手からは嫌われることはあっても好かれることはありません。「自業自得」なわけです。
相手を思いやる「和合」
永平寺の老師のみなさんも言っていました。「相手に対して『何か私にできることはありますか?』と聞いてください」と。まず相手のことを考える。自分の利益や欲を頭の中で先に考えると相手に見透かされる、ということです。
これは人間関係でもそうです。上司と部下、同僚同士、社長と社員、全部そうです。相手のことを思って発言していますか? いつも怒っている上司の皆さん、怒られた人の気持ちを考えたことはありますか? ハラスメントで悩んでいる両方の皆さん、相手の気持ちを考えたことはありますか?
そうしたことがこの本には書いています。社長の多い福井県民のバイブルになるんちゃうか、と思うくらい。我欲の強い古館さんが迷いながらそれでもお釈迦様の教えを目指そうとする姿が、見て取れます。でもそれは振り返ればあなた自身の姿でもあります。あなたは我欲が強くないですか? それをまずは自問自答してください。そして相手を思いやる。それが良い縁起を生み、和合を実現し、より幸福な人生を送ることができるのです。
以上、永平寺でのお話とこの本の内容を組み合わせた感想でした。是非手に取ってください。ちなみに、古館さんの対談相手、佐々木さんって三国町出身です。藤島高校卒業してます。誰か佐々木さんを福井に呼んで講演をお願いしてください(笑)