
今年も「ふくいムービーハッカソン」の時期がやってきます。これは2016年からスタートした、3日間で短編映画を撮影する市民参加型プロジェクトで、今年で9年目を迎えました。コロナの2020年だけは長編映画『いっちょらい』を撮影し、無事、昨年には劇場公開も行ないました。
「どうして映画を作るんですか?」
よくこの質問を受けることがあります。その際、3つの観点からお話しています。
①福井県民と映画の親和性
②ものづくりの街との親和性
③まちづくりとの親和性
これらが上手くかみ合ったとき、この街でいい映画ができると思っています。
①福井県民と映画の親和性

「全47都道府県幸福度ランキング」(一般財団法人日本総合研究所編)において5回連続で1位を獲得している福井県ですが、この内容を見ると結構危うい1位なのをご存じでしょうか。基本指標に加え、
健康、文化、仕事、生活、教育
この5つの分野の順位を総合してランキングを付けています。このうち、仕事分野と教育分野は調査開始よりずっと1位を獲得、最新の結果では生活分野は4位、健康分野は11位なのですが、文化分野が41位と、5角形のグラフにするとかなりいびつなのです。2位の石川県、3位の東京都の5角形はきれいなまま。
つまり、福井県は文化度が著しく低いと言わざるを得ません。特に文化活動のNPO数は45位、書籍購入額は43位と、文化活動もしないし本も読まない(もしかすると図書館が充実している、というのもあると思いますが…)街です。しかし、文化分野10指標の中で唯一、10位以内にランクインしている項目があります。それが「常設映画館数」7位です。
人口当たりの映画館数が多いのは、言い換えれば映画を観る機会が多いということ。特にエキマエにスクリーンが6つ、それも大手のシネマコンプレックスではなく地元企業の映画館。こういう風景はかつては全国的にありましたが、もはや地方都市では福井だけ、なくらいの風景です。
以前、東京の映画プロデューサーに聞いたことがあるのですが、数字的に見ても福井県は異様に映画を観る県だ、ということをおっしゃっていました。つまり、映画と県民の親和性は高く、エキマエと映画の親和性も高い、ということです。文化度を引き上げるきっかけとして、映画は最適だと考え、エキマエで映画を撮影しています
②ものづくりの街との親和性

福井県には7つの伝統工芸品(越前和紙、越前漆器、越前焼、越前打刃物、越前箪笥、若狭塗、若狭めのう)と、2つの基幹産業(繊維、めがね)があります。そのうち、歴史が1500年という途方もない伝統工芸を2つ(越前和紙、越前漆器)持っています。日本という国が形作られるその前から現在まで、工法を変えずに作られ続けているのです。
つまり、福井県があるこの地域はずっと、「ものづくり」を手掛けてきた地域であり、県民にはそのDNAが連綿と受け継がれてきているのです。事実、「ふくいムービーハッカソン」で誰も彼もが映画制作の現場が初めてだというのに、夜中にも関わらず笑顔で制作に没頭する姿を見て、映画もまたものづくりの一つなのだと確信しました。
映画はいろんな人が関わって一つの作品を作り上げる作業です。それぞれがそれぞれの役割を全うし、より良いものを作ろうと集中する、まさに「ものづくり」なのです。県民性との親和性は高いと考えています。
③まちづくりとの親和性

映画というのはその街の風景を、その街の空気感を、永遠に映像の中に留めおくことができる存在です。かつ、国内での映画祭は約200を数えるほど、毎月どこかで開催されています。「福井駅前短編映画祭」もまたその一つで、毎年130~150作品の応募があります。
今の街の姿をそのまま外の街の人たちに見せることができるのは映画祭しかない、とも思っています。もちろんSNSなどで動画の発信もできますが、映画祭はノミネート作品のみが上映される、“選ばれた映画”であり、作ったものをアップしてたまたまヒットするのを待つのでもなく、広告をかけて見せるものでもなく、それぞれの映画祭の人たちが、その街の人たちに見てほしいと選ぶ、能動的なものでもあります。
もちろん見てもらうに値する作品づくりのためにこの3日間を集中しています。「素人が作っても選ばれる作品になるのか?」という声もあります。ただ、これまで「ふくいムービーハッカソン」では出演した役者も制作スタッフも90%以上が市民であるにも関わらず国内外で受賞・上映されています。
2017年『いっちょらい』 はままつ映画祭ノミネート、ながおか映画祭準グランプリ
2022年『ふ、』 米・パサディナ国際映画祭ノミネート、米・トップショーツ月間賞、シンガポール・ワールドフィルムカーニバルノミネート
2022年『響輝』 クレイフィルムフェスティバルノミネート
2023年『supersunset』 日本国際観光映像祭ノミネート、熊谷駅前短編映画祭ノミネート、
2023年『END of DINOSAUR』 北海道国際映画祭江差セレクション、ぴあフィルムフェスティバルノミネート
また、映画を作るのは、スタッフだけではなく、地元の人たちの温かい応援があってこそ成立するものです。継続することで、映画を撮るという行動に免疫ができ、やがて、この街で映画を撮る人が増えたときに受け入れやすい場所になります。その輪が広がれば、全国ロードショーやドラマのロケ地に選ばれることになり、結果この街を知り、来てもらい、交流して、活性していく。映画を通じてまちづくりにつながっていくと信じ、毎年映画を作っています。
今、人口が減り、趣味嗜好も多岐に渡っています。ロードショーの映画は2時間前後というのが現在も常識になっていますが、「タイパ」という言葉があるように、この先10年、20年と過ぎていく中で映画の尺も変化していくのでは、という思いがあります。30年後、これは予想でしかありませんが、映画の尺は長くて1時間、通常30分、という時代が来るのではないだろうか、短編映画の市民権がより向上するのではないだろうか、と思っています。県民性、ものづくり、まちづくりの親和性が高い福井でこの先短編映画を作り続けていけば、30年後に「映画を撮りやすい街」になっていき、より福井県の存在感を増していくのではないかと願っています。
30年後の福井をつくるこの事業を、ぜひ一緒に楽しめたら、と思っています。