肉遍歴

みなさん、お肉食べますか? 食べますよね。自分も食べます。魚も好きですが、家ではほとんど食べず、外食先ではほとんど魚。その代わり、家では肉を食べることが多いです。むしろ肉ばっかりです。それも豚肉。鶏はたまに、牛はまったく食べません。
年を取ると、牛肉は”重い”んですよね…。脂が。鶏は皮が受け付けられないんです。一度鶏油を作ってみましたが、カリッカリになった鶏皮は好きです。つまり、脂のぐにょぐにょした食感が苦手なんです。かつ、分厚いお肉も苦手。なのでステーキなるものは結婚式の料理でしか食べていないくらいって程。
カレーですか? カレーは基本的に挽肉を使っています。小さい頃から。そもそも小さい頃は肉の脂身がまったくダメでした。トンカツはもちろんダメ、秋吉の純けいもダメ、すき焼きの牛肉は脂身をきれいに箸で取り除いて食べたくらい。なので、結婚してカレーを作ったときは嫁に驚かれました。
今でこそ脂身は克服してトンカツも食べられるようになったし、ホルモンの小腸は好物になっています。まぁ、それも腸の部分だけを網の上にセットしてカリッカリにして脂をぷりっぷりにして食すんですが…。秋吉の純けいは、今度は自分の歯が負けてしまうという(笑)。歯、弱いんです…。
小さい頃、母親がお肉屋さんで働いていたので、肉の味に対して本当に鍛えられました。ブロイラー臭がするとか、肉の脂が悪いとか、肉自体が臭いとか、『美味しんぼ』の山岡士郎ばりのめんどくささ(笑)。今は何でも食べますよ。味を消すくらいの下ごしらえをして。
フクイシウマイと出会う

そんな自分が数年前に携わったのが「フクイシウマイ」でした。「シウマイを福井の食文化にしよう」と号令がかかったので、どこまでできるかわからないけれど、やってみようと頭をひねりながら、いろいろ考え実行してきました。
当時、福井のブランド豚「ふくいポーク」が復活するというので、それを使おうということになりましたが、ここで知るわけです。食肉業界の世界を。よくお肉屋さんに行くと売っている、売れている部位ってあるんですよ。豚バラ肉とか豚ロースとか豚ヒレとか。でも豚肉ってそれ以外の部位もあるわけです。
じゃあ売れなかった部位はどうなるのか。こま切れにするか挽肉にして適正価格より下げて売るしかないんですって。この“余剰部位”をいかに活かすか、ってのが、実は生産頭数を上げていく方策なんだとか。それだ! フクイシウマイに使おう! となって、余剰部位を集めに集めまくりました。
アレンジしてもらうために
さらに皮はグルテンフリーで福井県産米粉。「ふくいポーク」と県産米粉という、福井ならではのフクイシウマイ「みんなのシウマイ」が完成しました。この「みんなのシウマイ」ですが、味を薄めに作っています。何故かというと、みなさんでそれぞれの味付けで愉しんでほしいと思ったから。
もちろん、食品メーカーが作るシウマイは味付けをしっかりしています。それだけで食べられるようにと。でも「みんなのシウマイ」は各飲食店や各家庭でアレンジしてもらうことで、いろんな味のシウマイが生まれるのを期待していました。実際に飲食店さんではいろんな味付けの一皿を出しています。
今は月産約10000粒くらいになっていますが、目標はその10倍、100000粒! そのためにはもっともっと広報が必要、なんですが…。今のところは粛々と、地道に、って感じです。事業が終わっても今もつながりは深くあります。なので、みんなで4日に行なわれた「食と農の博覧会」でも「みんなのシウマイ」提供してきました。
目標は「かぬまシウマイ博覧会」にてスポット参戦して、シウマイ仲間を増やしていくこと! 栃木県鹿沼市って、シウマイの街なんです。「福井にもシウマイあるんですよ」って伝えに行きたいです。
https://www.kanuma-shiumai.com/
腸活は人間だけじゃない
「ふくいポーク」の最大の特長は乳酸菌を配合した飼料を使っていること。人間世界も最近は「腸活」って言葉があるでしょう? 腸は脳に匹敵する神経細胞が集中してるし、だから「腸は第2の脳」と言われてるし。そもそも脳のない生き物はいるけど、腸のない生き物はないって言うし、生物の器官で最初にできるのが腸であったり。
つまり、人間だけではなく、あらゆる動物において「腸活」ってのは大事なんです。腸活こそが健康の源、的な。それは私たち人間が口にする「動物」もまた同じなんです。それを率先して行なって生まれたのが「ふくいポーク」でした。
ふくい和牛ふくふく

それは豚だけではありません。牛だってそうです。国産牛って言われるのが、仔牛を牧場から購入して“肥育”と呼ばれるように2年以上大きくしてから市場に出す、ってのが主流です。以前与論島に仔牛を育ててる牧場あったなぁ。あの仔牛たちもどこかで肥育されてるんやろなぁ。
2025年10月に新登場した『ふくい和牛ふくふく』もそうした腸活を、乳酸菌の飼料を与えて、加えて坂井市の米や稲わらも飼料として与え、抗生物質を一切使わないで肥育した牛です。福井で初めて出荷されるタイプの牛なので、これまでのブランド名「若狭牛」ではなく「ふくい和牛」なのだとか。
抗生物質ってよく聞きますよね。人間世界でもよく使っていますよね。自分も身体が疲れてくると身体の中で一番弱い部分である、純けいを食べられないくらい弱い「歯」が痛み出します。虫歯でもないのに歯茎がズーンと痛み出すんです。そのときに歯医者さんでもらうのが抗生物質で、あっという間に治まります。
抗生物質って即効性があるので、いわゆる成長を促すためにも使われているのだとか。早く大きくなれば確かにたくさんお肉になるし、回転率も上がり、ビジネスとしてはそうなのかもしれないです。
がしかし、なんですよね。「MAGO GALLERY FUKUI」で来廊された方にサステナブルな話をし、作品に毎日囲まれていると、循環型社会、SDGsに意識が行くので、自分の価値観も「大量生産大量消費」から離れて行っています。もう少し地球に優しい生き方をしていこうと動き、行動するようになっています。10月18日から大型個展も開催するので、こちらも是非見に来てください。
自分なりのSDGs
でも、そうした行動ってそんなに簡単ではないです。今の資本主義社会を完全否定していたらそれはそれで生きづらくなるので、自分のできる範囲でやっていこう、そう思っています。めちゃめちゃ身近な話で言うと、コンビニコーヒーを買うときに蓋を使わない、とか(笑)。一つプラスチックを使わないでおこう、という意識が、結果的に当たり前になっていて、何百杯と飲んだコーヒーの分だけ、何百枚の蓋分のプラスチックを使用しなかった、ってことで。
ホント、そのくらいでもいいと、SDGsに関していえば思っています。塵も積もれば山になる、の言葉通り、一人ひとりの塵が、ゆくゆくは山になる、ということだから。会社のコピーを1枚でも少なく印刷すれば、家の使わない電気を消していけば、出しっぱなしの水をちょっとでも止めれば、それもまたやがて山になる、ということです。
だから『ふくい和牛ふくふく』の話を聞いたときに「めっちゃ循環型社会形成牛やん」って思いました。県内の土壌から栽培された飼料に、腸活で健康になった牛の糞が近くの土壌の堆肥となって還元される。そして土壌もまた健康になり、大きな実をつける。
サステナブルキャピタリズム
この話、MAGOくんのサステナブルキャピタリズムの原点と似た話だったので腑に落ちたんです。アメリカのオーガニック化粧品を扱っている女性社長と空港で話をしていたときに、彼女の口から出た「サステナブル」という言葉が、MAGOくんにとって初めての響きだったのです。
彼女曰く、土壌に優しい育て方でできた植物から作った化粧品は、もちろん人の肌にも優しいわけで。その化粧品が売れたら、必要となる植物も増えるわけで。その植物を育てるには土壌に優しい栽培法が必要なわけで。つまり、化粧品が売れれば売れるほど、その栽培法が広がるので土壌に優しいわけで。結果的に地球の土壌が豊かになるわけで。
土壌に優しい栽培→化粧品は人に優しい→土壌に優しい栽培地が増える→人に優しいので安心安全に過ごせる→さらに土壌に優しい栽培地が増える→地球に優しくなる
ってな感じですか。『ふくい和牛ふくふく』もまさにこれ。健康な牛を育てる→安心安全な牛肉が選ばれる→牛が増えた分、安心安全な堆肥により健康な作物ができる→健康な作物の飼料で健康な牛が増える→安心安全な牛肉がより多くの人の口に入る→健康な牛がより多く育つ→和牛というブランドが保たれる、みたいな。
和牛ブランドを守るため

この最後の「和牛というブランドが保たれる」というのが実はミソなんです。和牛って外国の旅行者にとって垂涎の食べ物で、もちろん海外への輸出品にもなる高級食材でもあるんです。が、少しずつ少しずつ、EUでは抗生物質を使っている肉牛に関しては規制を敷いているそうで。
これが世界中で規制が起きたとき、唯一使っているのが日本だとしたら、肉牛を輸出することは叶わなくなります。ついでにそれが悪い評判になり、それが日本人にも波及していくと、日本人でさえ牛肉を避けることになってしまい、和牛というブランド自体が消滅する、という「可能性」があります。あくまでも「可能性」です。
『肉はナカノ』の中野社長は、加えてお店に立つ側から、お客さんから安心して食べられる、健康な牛肉がほしい」という声も聞いていました。だからこの「可能性」を排除するために、何よりもお客さんの「安心できる牛肉」を提供するために、『ふくい和牛ふくふく』に取り組んでいったそうです。もっと酷な話も聞きましたが、それはオフレコ、っちゅうことで。
“重く”ない和牛

最初に書いた「牛肉は“重い”」と感じていたのも、そうしたところに起因する「可能性」は排除できません。どうしても避けてしまうのは、ある意味自分の身体がそれを拒否している「可能性」も排除できません。『ふくい和牛ふくふく』は、穀物飼料の中に県産米を配合していて、“重い”味わいではなく意外とあっさりとした食感なのだとか。
でもそれでは魅力的な牛肉にはならない、ということで、“熟成”を加えて、自然な状態でグルタミン酸を増やしてから出荷するそうです。通常より長い30カ月以上という肥育期間に、雌牛だけを使用、さらに最後は肉本来が持つ自然のチカラで安心を作り上げる、優しい旨味を実現させました。
本来、牛という生き物は牧草を食べて生きてきました。しかし日本で牛肉が盛んに食べられるようになったのが明治時代。つまり大々的に畜産が行なわれ始めたのは150年くらいの歴史でもあります。そのときに米作がメインの日本で飼料として存在していたのはお米や麦、大豆など。牧草ではなく穀物を飼料にしたことが今の和牛の味になったのでは、ということみたいで。
これを発表したのは9月。しかしアンテナの高い料理人は早いですね、すぐに問い合わせがあり、実食して「こういう牛肉を探していた」と、すぐに取引先も決まったそうです。全国の高級レストランも注目しています。もちろん県内のアンテナの高い飲食店もすぐに注文が来て、順次登場していきます。県内外のスーパーや飲食店はとにかく興味を持っているようです。
「今すぐに食べたい!」という方はミニエにある『ナカノキッチン』に行ってみてください。すき焼き定食で食べられますし、『肉はナカノ』でも販売しています。もうすき焼きは脂ごといただきました。“重く”ないので、スイスイです。おかわり必至です。
県民ならできる「一歩」
全国津々浦々、「国産和牛」というのがあります。未だに「大量生産大量消費」の声が“上”の方では大きいから、畜産農家の皆さんは価格競争に巻き込まれ、結果作りたい牛も作れず、現行の資本主義の中で生きざるを得ない状況です。加えて人口減少で畜産を辞めるところも増えているそうです。となれば、ますます「国産和牛」の行く末を案じてしまいます。
だからこそMAGOくんの唱える「サステナブルキャピタリズム」が生きてくるんじゃないか、って思いました。ある意味この理念は現行の資本主義を打破しようとする理念です。でも、これは決してMAGOくんが作り出すアートの世界だけの話ではない、というのを『ふくい和牛ふくふく』のお話を聞いて強く思いました。
「やりたい」は誰でも言えますし、誰でも思えます。でも世界を見渡して、足元を見渡して、危機感を覚えて一歩踏み出した中野社長は、MAGOくんに通じるものがありました。新しいコト、誰も見たことがないコトは、どうしても反発があり、否定があり、障壁が高いものです。正直怖いと思うでしょう。その怖さが踏み出すことを躊躇わせるんです。
でも「やらなきゃ」という強い意志と固い覚悟が一歩を踏み出す勇気をくれるんです。「ないものは作ればいい」。この精神は福井県民すべての中にあるDNAだと、取材を通じて感じています。だから福井県民は強い、確固たる覚悟があれば強い、一歩踏み出す勇気があれば強い、そう信じています。だって、それが世界を変えるのだから。
是非福井県外の人は福井に来たら『ふくい和牛ふくふく』をご賞味あれ。
