SDGsって何ですか?
サステナブルって言葉聞いたことあります、よね? SDGsって言葉聞いたことあります、よね? 長坂真護くんの「MAGO GALLERY FUKUI」で説明をしていると、SDGsは聞いたことある、でもその意味がわからないという中学生とか、SDGsってなんですか? と聞く小学生の母親(小学生は理解している)とか、まだまだわからないんですよね。
Sustainable Development Goals。日本語に訳せば持続可能な開発目標、ってことになって、17の指標に合致するような行動を起こしていきましょう、ってことです。ただ、この17の指標がまた結構アバウトなので、「結局何したらいいの?」ってことになるんですよ。
めちゃくちゃ簡単に言うと、使わないところは電気を消しましょう、とか、車でガソリンを使わずに公共交通機関を使ってみましょう、とか。仕事で言えば性差なく公平に評価される会社にしましょう、とか、自分だけ利益を得るのではなく、みんなで分け合いましょう、とか。生活で言えば着なくなった服は捨てるのではなくリサイクルしましょう、とか、ちょっと破れたとしても縫って直しましょう、とか。
昔、雑誌でサステナブル特集を作ったときに、杉本知事にご登場いただいたのですが、そのとき知事が伝えた言葉は
「SDGsの基本は『ちょっとのガマンと気遣い』。わがままを抑え、周りや人や自然に優しくしましょう」
でした。そう、誰も彼もがちょっとだけ我慢をする、ってことがSDGsの本質であり、この世界を持続可能なものにするのだと、端的に、とてもわかりやすく伝えてくれました。さすが“杉様”です。
我慢をするということ
我慢をする。この一言って、無理なこと、無茶なこと、って思っていませんか? でも意外と皆さん、いろんなところでちょっとの我慢ってしていると思いませんか? 自分の思い通りにならなくてイライラして、でもここでキレて関係がギクシャクするのもどうかなぁ、と、ちょっとぐっと抑えるときってないですか? まぁ、すぐキレるのは我慢が足りない人でもありますが…。そういう人が増えている感も否めませんが…。
我慢って、結局自分の“我欲”と密接に関わっていると思います。その“我欲”を抑え、相手のことを考え、気遣って行動する。いわば、思いやりを持って生きる、ってことです(詳しくは別のブログにて)。こう書けば、当たり前のことなんじゃない? な感覚でしたが、だんだん世界が身近になってくると、それぞれの国の、それぞれの価値観が押し寄せてくるようになって、「思いやって行動するなんてバカみたい」と、我欲に突っ走っていった、って感じに見えます。
その連鎖の結果が、人権侵害、オゾンホール、PM2.5、海洋プラスチック、異常気象、地球沸騰と、とめどなく世界的な問題ばかりを引き起こしています。正直これ以上はもう地球が持ちません。世界を巡るこの危機的状況を、何とか食い止めようと国連が編み出したのがSDGs(ひとつ前はMDGs)でした。
もちろん言葉一つで止まるわけはないですが、言葉がなければ人は意識さえしないんです。SDGsという言葉は少なくとも人間に地球の危機を意識させ、その意識が「何かできないかな」という行動に移っていくんです。
その一つが、福井大学が実践している「フクミラ」プロジェクトでした。正直、知られなさ過ぎてもったいないと感じました。いやこれもっと知るべきでしょう、福井の人ならば。と、反省しきりです…。なんでかって?
フクミラの功績
フクミラとは3つの意味があります。「服の未来」、「福井の未来」、そして「幸福の未来」。福井県はいわずもがな繊維産業の街です。実際県内労働人口の20%強が繊維関係の仕事をしています。でも、繊維産業は環境によろしくない、とされています。石油産業に続く世界第2位の「環境破壊型産業」と…。
例えば水。服1着を作るのに使う水の量、何と2368リットル!
例えば二酸化炭素。染色をする際に排出される量、何と25.5キログラム!
例えば生地。服1着の50%の材料と、作った服の50%を廃棄!
そして最後、売れ残りの服も着なくなった服も、約7割が埋め立てor焼却!
…なんも言えねぇ。これほどか、と、この数字を見て愕然としました。繊維産業が盛んですよ、の言葉を裏返せば、「環境に悪い産業をやってますよ」って言っているようなもの…。そこでこの問題を根本的に変えていこうというのが、地元の大学である福井大学の「フクミラ」プロジェクトなんです。
例えば染色。水を使う代わりに“超臨界状態の二酸化炭素”の中に入れて水を一滴も使わずに染める
例えばリサイクル。“ケミカルリサイクル”方式で服を分子レベルまで分解して再度作る
…なんもわかんねぇ。でもとにかく、科学のチカラで変えられる、っちゅうことです。超臨界状態ってのは、気体でも液体でもない状態のことらしく、その状態のときは染料が繊維に移りやすくなる、ってことで。ケミカルリサイクルは、今では捨てられるペットボトルを新しいペットボトルにして使うという流れができてます。その技術のようです。
環境破壊型から環境保全型への移行をすることで、服の未来も変えられるし、ひいては福井の未来も変えられるんです。科学のチカラで。科学も人の思いが形になったもの。つまり、「何かできないかな」が未来を変えていくんです。
でもって、この「フクミラ」をどう現場(生活者側の視点)に落とし込むか、ってのがこれからの課題なのですが、それをまずは形にしたのが「ぐるぐるふくい」というイベントでした。ある意味、このイベントは福井だからできたイベントです。福井って歴史があって、産業があって、学術があって、実践する場がある街だから。
ぐるぐるふくい
やっと本題です(笑)。相変わらず前振りが長い…。「ぐるぐるふくい」を作るにあたって、だいぶ前からその素地はあったようです。前述の繊維産業の状況を鑑みて「こんなことしたい」というのが県の中でもあったそうです。そんなときに県の人がやってきて「会わせたい人がいる」と新栄商店街に来られ、事の経緯を聞き、「こんなことしたいんですよね」とポツリ。
「じゃあここでやればいいじゃないですか。ここは繊維産業で発達した商店街で、当時は呉服や下着や端切れなど、繊維関係の店が並んでいました。それに築70年の建物をリノベーションしながら使っている、まさにSDGsな場所ですし」。こうしてこうしてこうすればできる、という道筋を立て、スタートしました。
でもって、東京のイベントディレクターさんや、東京のアパレルブランドの方も合流、そしてさまざまな福井の繊維産業の雄も集合、かくして実行委員会が立ち上がり、着々と内容も決まっていきました。
といっても、繊維だけでのサステナブルイベントということに少し引っ掛かりも覚えていました。ちょっとコア過ぎないかな、と。食も交えたほうがいいかな、ということになり、それならば時期的に脚折れとかのを使った「カニ汁」とか、どうせなら「フクイシウマイ」やってるからそれもぶっ込んでいきましょう、ということになりました。
ぐるぐるな食
フクイシウマイ
「なんでフクイシウマイ?」と思う人もいるでしょう。当日もよく言われました。福井県が「フクイシウマイを福井のブランドに!」と銘打ったので、それをお手伝いをするにあたって「汎用型を作って誰もが使えるものを作ろう」と、いろんな人を巻き込んで「みんなのシウマイ」を開発しました。でもって「みんなのシウマイ」って、実は結構SDGsな食べ物なんです。
ふくいポークというブランド豚があるのですが、そこまでたくさん生産されないので、毎年の行き先が決まっています。ただ、売れる部位ってある程度決まっていて、余剰部位というのがたくさん出てきます。それに目を付け「全部回収します。全部ください!」とすることで、素材をちゃんと使い切る取り組みをしています。さらに皮の部分も福井県産米粉100%で、グルテンフリーの誰もが食べられるシウマイになっています。
カニ汁
さらにカニ汁も今回特別に作りました。カニは「鮮魚 丸松」さんが仕入れた、能登や越前で揚がった脚折れなどの「紅ズワイガニ」を使っています。今、ズワイガニが絶好調らしく、価格が安定しているので、それより安い紅ズワイガニは行き場がなくなっているそうです。それも脚折れとなったらもう…。ちゃんと獲ったものは最後まで消費しましょう、と今回使いました。
野菜は自動手書き事業を手掛ける「エクネス株式会社」が運営する、全国の規格外で廃棄処分になる野菜の定期便「ロスヘル」の野菜を使いました。日本って1年間に出る食品ロスって約523万トンなのです。食べられるのに、形が不揃いってだけで廃棄。こんなもったいないことってあります? 食べられるものは全部食べましょう、と「ロスヘル」を立ち上げたそうです。うちも使ってます。おかげで野菜買わなくなりました。
ぐるぐるな服
そしてさらに本題に。もう長過ぎ(汗)。服も同じです。ちゃんと使い切りましょう、ということなんです。先ほどのように服も生地も余りまくっているんです。ちょっとおかしいから廃棄、だけでなく、半分廃棄、売れ残っても廃棄、余った生地も廃棄。
きっと、業界の人にとっては「だって昔からそうなんだもん。なんで今さら…」という感覚なのだと思います。どの業界だってそう。長くいればいるほど、不都合な真実に見えるものが当たり前になって、いつしか麻痺していくんです。出版業界にいたときも同じ感覚でした。この不都合な真実は他の社員には見せてはいけないと思い、そうした裏の部分は誰にも渡さずに自分で処理してきました。
それでも、今回参加した繊維業界の雄は、その不都合な真実に目を伏せず、「何かできないかな」を表に出しました。その覚悟と服の未来へ、福井の未来への道筋を作ったのが、この「ぐるぐるふくい」なのです。
アーバンリサーチ、Lee&T.K.ガーメントサプライ
アパレル大手「アーバンリサーチ」さんはこの企画に賛同し、余った服を提供いただき、福井の「T.K.ガーメントサプライ」さんがリメイクして新しい価値を作って売り出しました。新しく染色し、服を縫い合わせ、どこにもない一着を作り上げました。さらにデニム大手「Lee」さんの商品も、展示のみでしたがリメイクして生まれ変わりました。
「T.K.ガーメントサプライ」さんはかつてアメリカ古着の輸入販売を行なっていましたが、そこに古着の生地が持つ魅力を見出します。まだ時代が「リメイク」という言葉を使っていなかった頃からリメイクを行ない、新しく命を吹き込むリメイカーとしてスタートしました。それぞれの布には歴史があり、物語を紡いでいます。その物語を次の世代に、新しい形で引き継いでいってほしい思いが、それぞれの商品に込められています。もちろん縫製をするのは福井の職人さんたちです。
BRING
「BRING」さんは、ポリエステルの服を素材まで分解して再び服を作ったりしてます。元々企業用の制服を扱う商社で働いていたのですが、同じ制服を毎年のように作り続けることはつまり、同じ量の制服が捨てられているという不都合な真実を見て、「何かできないかな」と「BRING UNIFORM」を創業されたそうです。
そこからアパレルブランドを作るにあたり、回収してリサイクルして、素材に戻してまた服を作る「BRING」を立ち上げます。ゼロに戻して作り直すと、肌触りはコットン級。それでいてポリエステルならではのUVカットや吸湿速乾性があるという、新しい素材に生まれ変わって、どこにもない服が完成しました。さらに今回はいろんな服を回収して「小松マテーレ」さんで染め直して再び商品化してみる取り組みを発表しました。サンプルではありましたが、これまたいつもと違うものになると感じました。
ラコーム
「ラコーム」さんは、創業が1941年と勝山でも老舗の縫製会社です。今回は自社で出た“残反(ざんたん)”をその場でミシンで縫製して子供用のサルエルパンツを実演販売していました。この残反というのは、繊維業界の中では頭を悩ませる存在でもあります。福井は縫製技術も高いので、いろんなメーカーさんが縫製をお願いしに来ています。しかし先ほども書いたように、生地は余ってしまうんですね。これが残反。
じゃあその残反はどうなるの、というときに、メーカーさんも「いつか使うかもしれないから持っておいて」と引き取らないわけです。それが何年も続いて、いつしか工場にはいろんなメーカーのいろんな残反が山積みになるわけです。結局焼却処分で費用もかかるし、そもそも勝手に焼却もできないわけで。以前別の会社の残反倉庫を見せてもらいましたが、縫製工場と同等の広さに天井近くまであったのは衝撃的でした。
今回はその中の残反を使ったのですが、若い社員さんたちはいろんな人の目が留まる中で、嬉々として縫い続けるわけです。作ることが楽しかったんだと思います。“ゾーン”に入っていました(笑)。工場で誰も見ていないところで作るのも集中できますけど、このようにオープンファクトリーのように見せる工場、というのもありなのだと感じました。
ジャパンポリマーク
熱転写(ポリマーク)技術を極め続ける「ジャパンポリマーク」さんは新しいブランド「PERFECTUM」を立ち上げ、ちょっとした穴や傷を簡単に修復してしまう魔法のような商品を作りました。キャンプギアやダウンジャケットのリペアパッチとして活用されており、キャンプギアの大手とのコラボレーションも果たしています。ポリエステルやナイロン製の衣服に効果を発揮するので、そうした素材の衣服も蘇ります。
この技術を使えば、アップリケのような装飾も可能なので、「ちょっとこの服飽きたな…」というものに装飾することで、捨てずにこれからも着回せる楽しみができます。今回もそのワークショップを開催して、お客さんが持ってきた服にアップリケをしていました。直す=縫製し直す、ではなく、=貼っておしまい、と簡潔にすることで、穴が開いた=捨てる、という意識を変える。リペアの概念を少し変えてくれる商品です。
レピヤンリボン
来年で創業100年を迎える織ネームの老舗「松川レピヤン」さんが、リボンに特化したブランド「レピヤンリボン」を立ち上げ、今では国内でも最大となった「チロルリボン」を一から製造しています。そういえば、ちょうど立ち上げたときに取材しているんですよ。なつかしいなぁ。さらに自分で織って小物を作ることのできる「リボンズカフェ」も人気で、そのワークショップの一つであるスマホストラップ作りを行ないました。
今の時代、ミシンを踏む機会って少なくなっていると思いませんか? 小学校の家庭科の授業でもほとんどないし、家にもないくらいのレベルで。男になるともっと機会が減るから、ミシンの扱い方ひとつわからないくらい。でもミシンは繊維の街では必須アイテム。ミシンを扱う機会、ミシンで作る機会が増えれば産業としても底上げになるのかも、とは思いました。「レピヤンリボン」さんはそうした機会の無さを何とかしたいとイベント出展を始めています。
トンカンテラス
「ソリッドラボ」さんは、まさにサーキュラーエコノミーを主軸に創業した会社で、海洋プラスチックゴミを粉砕し、成形し、新しくものを作る会社として注目を集めています。どうしても型を金型で作ったり、プラスチックを粉砕したり成形したりするには高額になってしまいますが、こちらは個人でも所有できる、小さな会社でも実装できる、一人で持ち運べる粉砕機と成形機を一から作ったのです。
こちらが運営する「トンカンテラス」は自分で作る作業場、そして交流の場を展開しており、今回も上記の粉砕機と成型機を使って、自分でボタンやカラビナを作るワークショップを行なっていました。「ソリッドラボ」さんは、世界100か国以上に広がっている、オランダ発の「プレシャスプラスチック」の福井版を始動させています。
ちなみに。海洋プラスチックゴミって海岸に相当打ち上げられていますが、それでも海上を浮遊しているものの数パーセントしかないとか。ほとんどが中国や韓国から流れ着いている、と思うでしょう? 確かに福井の海に漂着するゴミには中国語やハングル語が入っています。でも日本は、一人当たりの容器型プラスチック発生量は世界で2番目、プラスチック全体の生産量は世界で3番目です。それに日本近海のマイクロプラスチック濃度は世界平均の27倍だそうで。(WWF:海洋プラスチック問題について)
もはや日本という国の「因果応報」です。嶺南(敦賀・美浜・若狭・小浜・おおい・高浜)では年間のプラスチック処理費用に平均1000万円がかかっています。これもまた、資本主義の“闇”の部分の一つです。「ソリッドラボ」が創業されたのも、そもそも仕事でプラスチックの設計開発をしながら、どこかで見て見ぬふりをしてきたけれども、やっぱりちゃんと向き合って「何かできないかな」と考え、行動したからです。
福井大学
そしてこのイベントの主軸である福井大学。「フクミラ」のことよりも、端材でワッペンを作ることでサステナブルな楽しみ方を伝える方向で、高校生たちが一所懸命子どもたちとワッペンつくりに励んでいました。彼女たちがこうしたイベントに参加することで、次の福井で何を考え、行動するかの一助になると思っています。
ぐるぐるな新栄
そして会場である新栄商店街。このブログで何度も出てくる、自分の拠点である商店街は、戦後の闇市から生まれた場所です。そこから繊維に関するお店も増え、一時は人がすれ違えないくらいの賑わいを見せていた場所でした。アーケードも商店街が独自で建設し、ほとんどのお店が住居兼店舗の形で、かつ木造3階建てもあり、アーケードの柱がお店と同化してしまっている、特異な商店街です。
郊外化と周囲の道路整備によって客足が遠のき、2010年頃にはほとんどが営業をしていないシャッター商店街になったのですが、この10年で純増30軒の店舗が入居し、再開発一辺倒からリノベーション一辺倒に大逆転した、奇跡のような商店街です。
自分たちの世代はDCブランドと呼ばれたお店が軒を連ね、“おしゃれで、でもちょっと怖い”イメージがありました。今は古着のお店も多く、ヴィンテージのお店もあり、かつ、福井では無理と言われていた立ち飲みのお店も定着し、他にはないお店ばかりが点在して、カナダ人、アイルランド人、インドネシア人、アメリカ人、そして周囲のベトナム人のお店と、まぁとにかくカオスです(笑)。
ラーナニーニャ
そこに12年前にお店を開いたのが、ボクサーパンツ専門店「ラーナニーニャ」です。上記の通り、繊維産業が盛んでも知られていないから人が集まりにくく、それが続いたら技術も途絶え、結果的に産業も衰退していく、と、取材を通じて感じたので、「駅を降りたら福井の繊維を使ったパンツのお店がある」と、新栄商店街を選びました。
なぜパンツか、というと、福井はポリエステルに代表される化学繊維が現在は得意で、それはスポーツウェアなど伸縮性の高い衣服に使われています。でも、これまた取材を通じていろんなデザイナーやアーティストに出会ったこともあり、彼らのアートを使いたい、とも思いました。デザインをするというのは、とにかく派手であること。かといって、派手なTシャツは着にくいだろうと、でも下着ならいくら派手でもいくらエロくても見えないから身に付けられる、と考えました。
ブランド名は「iLachica(イラチカ)」。福井の方言に各国の言葉をもじりました。「パンツのゴム」って意味です。なんでやねん、って思うでしょう? これは英語でゴムのようなという意味を持つ「elastic」から来ています。嘘つけ! って思うでしょう? 福井には他にも英語から福井の方言になった言葉もあります。「じゃみじゃみ」とか。これは昔テレビの“砂嵐”を意味する「jamming」から来ています。
そうしたお店や取材での活動の中から残反のことも知り、残反をどうにかパンツにできないかとお願いをして、一社だけそれを可能にしてくれました。他が二の足を踏んだのは、ロット数が少ないから。まだまだ大量生産の感覚を引きずっています。でもこの話は10年も前のこと。そろそろいろんな会社が残反を使った商品を作ってくれたらな、とは思います。縫製会社の皆さん、ぜひご一考を。
MAGO GALLERY FUKUI
そして、パンツを作るにあたって、彼の絵を真っ先に使いたいと思っていました。MAGO、現在は長坂真護で活動している美術家です。かつて新宿で路上の絵描きだった頃から応援し続け、今や世界が知る寸前まで来ている存在です。彼の名を広めたのは2017年からシリーズ化している、ガーナの電子廃棄物を使ったアートです。
ガーナには先進国から“中古品”という名目で、使えない電子機器が捨てられていきます。かつて美しい湖だった場所は、今や世界最悪の環境になってしまっています。このスラム街に住む人たちは、この電子機器を燃やし、中の金属を取り出して、それを売って生計を立てています。それでも1日約500円。毎日何時間も燃やし、黒煙を吐き続け、その煙を吸った人たちはいつしか体が蝕まれ、やがて30代でガンになって亡くなります。それでも止められないんです。それしか仕事がないから。
そんな事実を知ってしまったMAGOには、二つの選択肢がありました。一つは見て見ぬふりをして生きる。もう一つはこの世界を変える。彼は茨の道である後者を選びます。そして2度目の来訪時にはガスマスクを持参し、アートで世界を変えようと、そこに落ちていた電子機器のゴミを拾い、アートに変えます。
そして発表したその作品にはいきなり2000万円の値が付きます。それまでそんな価格で自分の絵が取引されたことがない彼は、その事実に驚き、一晩中考えました。そして辿り着いた答えが、かつてアメリカ人の経営者に教わった「サステナブル」でした。
以降の彼の周りは一変します。作っても作っても売れていってしまう。需要と供給のバランスがいい意味で崩れていき、彼の作品は高騰し続けていきます。ハリウッドのプロデューサーが制作したドキュメンタリー映画「Still A Black Star」は、アメリカの映画祭で4部門を受賞、2022年には上野の森美術館で個展を開催して2万人を動員、そして大谷翔平選手と共にベストドレッサー賞を受賞。
自分のギャラリーを福井で作ってほしいと彼から言われ、二つ返事で快諾しました。そして完成したのがこのギャラリーです。この世の中で一番彼の絵を持っている人が多い街、を作りたいと思いました。そして会社や家に飾ってもらって、サステナブルとは何か、SDGsとは何か、世界の真実とは何か、というのを意識してもらいたいと思いました。結果その意識がこの街をより良い街にすると思ったから。
ちょっと長くなりましたね(汗)。まぁでもとにかく、彼の作品を鑑賞しに来てください。
Sustainable Capitalism Store
その彼の思想に共感したのが、ガラス業界の寵児「OOKABE GLASS」さんです。「ラーナニーニャ」の隣に彼の理念「サステナブルキャピタリズム」をそのまま名前にしたお店を作りました。ガラス業界も同じような問題を抱えていて、ガラスや鏡や建材のデッドストックが大量に出てくるのです。
これも廃棄するのに費用が掛かるし、二酸化炭素の排出も増えます。もちろん使えるものばかりです。だからこのデッドストックを県内から集め、すごーく安価に売りましょう、というお店を立ち上げました。そして決済も無人システムを独自で組んだという、かなり省エネなお店です。
これは「福井県板硝子商協同組合」としての店舗ですので、ゆくゆくはこの店舗名も全国に立ち上げたいと考えています。これが全国展開していけば建材のデッドストックを無くすことができるほか、DIYの機運も高まりサステナブルな国になっていくのではないでしょうか。
さらに今回は、越前市の縫製会社「モンスター」さんの協力の下、残布を使ったトートバッグを制作・販売しました。さまざまな生地を使い、異種の生地で制作したこのトートバッグ、ここでしか発売しない、希少なものです。
NIVI
福井駅周辺でのほぼ唯一のスペシャルティコーヒー専門店です。2021年のオープン以来、福井を訪れる国内外の人が、この場所を見つけてはコーヒーを選んでいます。こちらではフレンチプレス方式でコーヒーを立てており、豆を挽いたときに出る少量の粉を集めて消臭芳香剤として販売しています。本当に少量ずつしか出ないのですが、使ってみると本当にいい香りが部屋の中を包んでくれます。
あかしや
元自衛隊員が独立して始めた本物の自衛隊用品店で、こんなにいい性能がこんな価格で売ってるの? というくらいの商品があります。さすが国の防衛を担う組織。ものはいいです。そしてこちらのオーナーは自衛隊時代から音楽に触れており、中古レコードや真空管のアンプなど、マニア垂涎のものが並んでいます。時々聞こえてくるギターの音が、商店街のいい感じのBGMになっています。
古着専門店
この10年で一気に古着専門店が新栄商店街に店を構えるようになりました。彼らが仕掛ける古着のイベント「SURIFT(スリフト)」は1万人以上を動員したこともありました。さらにはかつてこの地で行なっていた「新栄裏路地フェスティバル」も復活させてくれました。皆さん30代~40代ですが、この商店街に店を構えるのは、この場所の空気感が好きだから。これからもこの空気感をみんなで守っていきましょう。
トークイベント
この2日間で4つのトークイベントが開催されました。
初日はデジタル庁シェアリングエコノミー伝道師・石山アンジュさんと福井大学米沢先生の、
【サーキュラーエコノミーとシェアリングエコノミー】です。
シェアリングエコノミーとはモノやサービスを共有することであって、既にカーシェアリングもシェアオフィスもシェアリングエコノミーの一環です。今ではその範囲は多岐に渡って、住宅、駐車場、家具、傘、オフィス、機械、食材、不用品、車、洋服などなど15兆円規模になるのでは、とも言われています。
でも、こうしたヨコモジにするから新しいものと思われがちですが、昔近所での“醤油の貸し借り”みたいなのありました。そうなんです、そもそもシェアリングエコノミーの意識もベースも日本に存在していたんです。このヨコモジにしたのは、その範囲がご近所さんから日本、世界まで広げられている、それが科学のチカラで可能になった、ということです。
ただ、近所は顔見知りだから信頼は担保されているけれど、オンライン上での信頼はどう担保されるか、というのが課題でもありますが、実は、日本人、というか、人間ってこうしたヨコモジで規定することなく、既にしていました。つまり、“口コミ”です。例えば、知らない街に行って、おなかが空きました。さて、どこでごはんを食べるでしょうか? まずみなさん何をしてますか?
Googlemapとかで検索しますよね。そのときに色々出てきますが、お店の選択は何をもってしてしていますか? ★の数とかじゃないですか? そう、経験した人が次の人に伝えるために★とコメントを残しているんです。それが現代版の“口コミ”です。それは貸し借りの個人であってもそう。その人が安心できるかって、その人と取引をした人が次の人に伝えるために残した“口コミ”で決めています。そういえば、「メルカリ」とかって既にサーキュラーエコノミーとかシェアリングエコノミーを実践してる感じですよね。
知っている人とのやり取りが第1段階の信頼であるならば、第2段階は組織、つまりメーカーのブランドですね。醤油ならばキッコーマンというラベルで信頼するようなもの。そして今、第3段階としてデジタル“口コミ”が信頼を作っているんです。だから、その口コミが付くようにアピールは必要になってくるんですが、デジタル“口コミ”は大々的な広告を使って作るのではなく、草の根的な、隣の人と話をするような中で生まれてくるもの、なのだそうです。事実そういう段階に来ているのだし、ビジネスも15兆円規模になってきているのですからね。かといって大手広告代理店はいらない、というのとは違うので。もっと国家的なプロモーションのためには大手広告代理店がいなければできません。
今年、資源循環型経済を推進する政策が閣議決定され、来年には法律ができるそうです。これまで環境省だけのリサイクル、という観念でしたが、サーキュラーエコノミーをより推進することを国を挙げて行なわれそうです。空き家問題もシェアリングエコノミーで二拠点生活向けに貸し出しもできるし、ちょっと家を持っている方は頭に入れておいてください。
福井にはポテンシャルはあります。ただ、あり過ぎて県内での自己完結型に終わっているふしもあります。だからプロモーション下手と言われ続けてきました。外にプロモーションも大事ですが、せっかく福井に来てくれた人との交流を重ねていきましょう。そうすれば自分たちに気付きが生まれるはず、と締めくくりました。
2日目の1本目は衣服の修理やリメイク、サーキュラーエコノミーを推進する「サイクラス」の平田健夫さんと、福井でのアウトドア人口を増やすために邁進する「CAMPANELA」の平岡和彦さんによる
【服を大切に使い続けるカルチャー】です。
「CAMPANELA」さんはアウトドア用品に加え、アウトドアファッションも販売していますが、コロナになり、先行き不透明の時代になったとき、ただ服を売るだけでいいのか、と自問自答し、以前から頭の片隅にあった「直す」ことを主目的としたイベント「FiRE BiRD」をやってみよう、と、2022年に第1回目をスタートさせます。
そのときに一緒に参加してほしいと声をかけたのが、アウトドア大手の「パタゴニア」さん。そのときの担当だったのが平田さんでした。ものを直したいと心から思い、地域に根差した活動をしている「CAMPANELA」さんの活動に共感し、参加することを決めます。
イベントには環境に対する意識が高い人が多く集まりましたし、「直す」ということを通じて環境に対しての意識を高める人も増えていったそうです。こうした「直る」という体験は、大量生産大量消費の社会に生きていると新鮮に感じ、サーキュラーエコノミーに関心を高めていくことにもなります。
海外、特にヨーロッパではサーキュラーエコノミーはかなり先進的で、その事例の一つとしてオランダの「ユナイテッドリペアセンター」の紹介がありました。こちらはさまざまなブランドの修理を、なんと無料で行なう場所なのだそうで、移民の方のリスキリングの場所にもなっていて、サーキュラーエコノミー文化の定着に一役買っているそうです。
では何故無料でできるのか。それは行政とメーカーと運営会社が連携してサポートしているのだそうです。行政としては移民雇用の一助になり、メーカーはブランディングの一助になり、そして国としてのサーキュラーエコノミー推進のイメージアップにもなるという、三方良しの取り組みです。
今回の「ぐるぐるふくい」は、まさに関心の高い企業が集まりましたし、文化を変えていけるポテンシャルも感じました。むしろ福井県が「ユナイテッドリペアセンター」のような取り組みを行えば、繊維王国としての強いアピールになるのかもしれません。
2本目は「Lee」の日本での事業を手掛ける「EDWIN」の細川秀和さんと「アーバンリサーチ」の萩原直樹さんによる
【ファッションの循環型モデル構築に向けて】です。
サーキュラーエコノミーへの意識は、まさしく世代間格差があることを痛感しているようです。
「エドウィン」さんも「アーバンリサーチ」さんも、店舗に回収ボックスを設置してサーキュラーエコノミーを実践しています。アーバンリサーチさんのほうはスタッフもその意識は高く、羽毛のリサイクルを目指す「グリーンダウンプロジェクト」に賛同して商品も多く回収され、通常よりもその商品は売れているそうです。
「エドウィン」さんが感じる世代間格差として5~60代男性が特に意識が低いのだそうです。もう一つ、商品の特性もあり、街なかの店舗まで重いジーンズを回収ボックスに入れる、という意識は低く、ロードサイド店や小環境と住環境が近い店舗での回収率が高いのだとか。それって、粗大ごみを出す感覚に近い…。
そして特にジーンズはファスナーやリベット、タグの皮など、記事以外にもリサイクル性が低いアイテムでもあります。それを解消する手立ては今のところ模索中ですが、そうした素材を使わない、リサイクル時に外しやすいなどの商品づくりにも着手しているそうです。
となるともう一つのジレンマが出てきます。ファッション性です。リサイクルに寄り過ぎるとファッション性が失われ、ファッションを高めるとリサイクル性が薄まる、という図式。しかし、ジーンズの最大のメリットは「ヴィンテージ」の代表格であるということ。つまり、長く着続けることで価値が高まる、というアイテムでもあります。
そのときに必要なのが、やはりファッション性になるのかもしれません。リサイクル率は低くても、他の服よりももっと長く愛される商品、品質、そうしたところに他の服にはない価値が生まれるのでしょう。また、回収後に染め直して再販することを前提として服を作る、というアイデアも、現時点でできことで、価値を高めることになるかもしれません。
アパレルの大手でもある2社ですが、サーキュラーエコノミーを推進するにはどうしても限界があります。単体でするにはコストがかかりすぎるのです。グリーンダウンも回収した羽毛を全部使いきるのも、回収したデニムからインディゴ染料を再度取り出すのも。それは結果的に価格に転嫁され、生活者にとって「やっぱりサーキュラーエコノミーでの商品は高い」と敬遠され、前に進むことができません。業界全体での、そして国も含めての取り組みが今後の課題となりそうです。
そして最後が「日本製紙」参与の松岡孝さんによる
【サステナブルな木材資源を活用した繊維業界への貢献】です。
デジタル化で大きな打撃を受ける一つが製紙業界です。雑誌が出なくなり、新聞の購買量も減る中、紙を作らないで何を作るか、というのが喫緊の課題となっています。
ご存じの通り、紙は木から生まれます。木は6割が建材として使われ、3割が紙として使われています。丸い木を視覚に木材にした後の残りを煮て、セルロースを取り出し紙にして、それで木の役割を果たすのですが、ここにもう一つの問題があります。人材不足です。
「日本製紙」さんだけでも世界中に香川県とほぼ同じ面積の山林を植樹しており、そのうち国内は9万ヘクタールを所有しています。が、切る人がいない…。国内では9万ヘクタールのうち3万ヘクタールしか活用できていないという事実があります。
もちろん、ダム建設などで植樹した山林に行けないという面もありますが、成木を放置すると土砂災害などの危険性もないわけではありません。紙を作るだけでなく、自然も、林業も踏まえた、大きな国内の課題に直面しているのです。
そうした中で紙も作れない、その需要に取って代わるために、様々な製品を生み出しています。木の樹脂を油として使ったり、セルロースを牛の餌にしたり、食品添加物にしたり、化粧品添加剤にしたりと、意外なところで木は使われているのです。さらに科学のチカラでナノ単位にして保水力を高めて、より使われやすい製品化を行っています。
その代役として注目しているのが「繊維」なのです。そもそも「人絹(じんけん)」と言われた人造絹糸のレーヨンやキュプラの成分はセルロース、つまり木でした。福井も化学繊維の前は人絹で世界を席巻していました。加えて、銅イオンを付着させた「紙糸」と呼ぶ、消臭抗菌効果に優れた繊維として開発も進んでいます。
自然由来のセルロース繊維を、石油由来の化学繊維からどう置き換えられるか、それが結果的に日本自体を強くしていきそうな気がします。資源のない国といわれる日本における最大の資源が「木」なのです。以上の通りに木材以外にも身近な存在として変化させることができます。
国産材を活用すれば、成木を伐採して、二酸化炭素を吸収する若い木を植林できます(実は成木は二酸化炭素をそこまで吸収しないとか…)。そうすれば土砂災害などの災害を避けられ、国土強靭化にもつながります。その伐採する人たちが、つまり林業が職業として成り立つ仕組み作りも今後は必要のようです。
資源がないといわれ、木がほぼ唯一の資源と言われ、はたと気付かされます。そして木の可能性もまだまだありそうです。あとはロット、か…。
ぐるぐるふくいを終えて
イベントが終わり、また静けさが包む新栄商店街(ま、火曜日の風景なのでどこも開いていないんですが…)。今回、驚いたことがありました。こんなに人が来るんだ、ってことです。冒頭でも言いましたが、サステナブルな繊維のイベントってどうかな、って思ったんですけど、皆さんすごく興味を持って接していたな、と。
もう一つ、フクイシウマイがこんなに売れたんだ、ってこと。すぐ追加注文をもらって、予備を持っていてホントに良かったな、と。どれも考えられたものばかりで美味しかったです。そのまま通常メニューにしちゃってください(笑)。
今回は会場の手配と調整だけをお手伝いしました。でも周りのお店の方からは「またやってよ」とのお声をいただきました。「いつもより売れたよ」とのお声をいただきました。もちろんいつもの静かな商店街を好む方もいらっしゃいますので、すべてがよし、とは言いませんが、でもしかし、やってよかったと、心から思います。
それは単純にイベントが面白かった、ではなく、繊維業界の未来について考える機会と場ができたからです。これを例えばパネルディスカッション方式だったり、講演会のみだったりしたら、誰にも伝わらなかったと思います。これを福井の人たちだけでやっていたら、外には広がらなかったと思います。地域おこし協力隊の方のネットワーク、各繊維業界の方のネットワーク、そして関わったすべての方々のネットワークによって、第1回目でここまでできたのだと純粋に思います。
福井の片隅の小さな古い商店街の、小さなイベントだったかもしれません。でも、この一歩がなければ前に進むことはできませんでした。みんなの「何かできないかな」が少しずつ集まって形になった「ぐるぐるふくい」。まだまだ形としては小さく、もろいものかもしれません。でも”世界を変える核”はできました。今度はもっと多くの人が関わって、肉付けをして、しっかりしたものにすればいいんです。
世界は変えられる。みんなの「何かできないかな」で。
「ぐるぐるふくい」のレポートでした。
松岡 孝
日本製紙の松岡です。先日はトークイベントに参加させて頂きまして誠にありがとうございました。繊維産業が盛んな福井の町で、いかに参加された皆さまがSDGsに向き合っておられるのかを触れることができ、是非、木材もその一助になれるよう、弊社の事業とともに推進していきたいと改めて考えた次第です。また福井でこういった「ぐるぐる」系のイベントがございましたら、お声かけ頂ければ、馳せ参じます。(非可食の木材を利用した食品産業に貢献するものも現在推進しておりますので。。)
宮田 耕輔
松岡さま、この度はありがとうございました!
一番驚いたのが、9万haの森のうち、手が入らないのが2/3の6万haということです。
放置すれば自然災害を引き起こしかねないので、喫緊の課題のような気がします。
どこの業界でもそうですが、必要なのは“手”ですね…。
また来年もお越しください!