
あの宿のあのビール
ホント、今回は約25年来の夢を叶える日、でした。
三方五湖という、福井には有名な湖があります。福井の人でもこの5つの湖の名前を位置関係共々頭の中に入っている人は少ないと思います。この話、昔のブログでしてたなぁ、と、書いていて思いました。ので、その話はこちらで。
で、なんでこの話をしてるかというと、ある投稿からでした。青いビールを期間限定で提供するって見て、これは飲んでみたいと、返信したわけです。その場所はずっと前から知っている場所、その投稿主もずっと前から知っている人。この機会に話し込もうとやってきました。
そして、一緒に行こうと誘ったのは、この街における”戦友”とも言うべき人・佐竹正範くん。忙しい合間を縫って、来てくれました。

会いに来たのは『湖上館PAMCO』の田辺一彦さん。三方五湖界隈で知らない人はいないだろうというくらいの人。宿の店主としては3代目にあたります。何度も前職で取材をしてて、その度に惹かれる人でした。何よりも、福井でも古参の”ブリュワー”なのです。ビール屋さんでバイトしてるから、なおさら聞きたいと思ってました(笑)。
3代目としての梅

何に惹かれたかって、三方五湖を盛り上げたいと頑張っている姿です。田辺さんって、ボート競技の選手として、オリンピックまであと一歩のところまで来ていた実力の持ち主。やはりね、三方五湖周辺はボート競技強いのよ。練習できる場所が目の前にあるんだから。大学時代はボート部キャプテンまで務めてたくらいです。でも、自分とオリンピックに行ける選手との違いをまざまざと感じ、家を継ごうと帰ってくるわけです。
実家は『湖上館』という宿。祖父の代から始めていたそうで、でも祖父はどちらかというと梅農家のほうが本業でした。この界隈では最大の生産量を誇っていたそうですが、父はその宿の方に力を入れていきます。時代は観光が盛り上がりを見せた頃でしたしね、徐々に梅農家の田辺家から宿の田辺家になっていくわけです。

父が、それでも梅との関わりを見せていたのが「梅風呂」でした。ゆず湯みたいな感じ? クエン酸とミネラルが豊富なもんだから、美容にいいお風呂として有名になったそうです。確かそうやったなぁ、なんか聞いたことあるんよなぁ、って思ってたんですが、今はそうじゃないんです。
梅農家からの、梅風呂からの、梅ビールなんですねー。田辺家は代々、梅と関わりながら生きているわけです。だってね、この地は梅の産地ですから。明治の頃から栽培が盛んになって、今では生産量が全国3位ですから。ま、ダントツ1位の和歌山県には遠く及ばないですが…。
家業を受け継ぎ、さて、梅で何をするかと思いついたのがビールでした。これまた時代が「地ビール」で盛り上がりを見せた終盤の頃。ギリそのブームに間に合った感じでスタートします。
地ビールとクラフトビール
当時、地ビール時代のブリュワリーは約300ほどだったのですが、時代が下って今、地ビールからクラフトビールと呼ばれ、ブリュワリーは800までに! 今では梅ビールで検索してもいろいろ全国のビールが出てきます。
でもそれは缶や瓶で販売しているから。そう、ここは「この場所に来ないと飲めない梅ビール」なんです。だから貴重なんだし、いつか梅ビールを、って、約25年思い続けてました。

でね、ビールって大きく2つに分かれるんです。発酵していくうちに酵母が樽の中のどの部分に移動するか、です。上に行く酵母を使って作るのが上面発酵で「エール」と呼ばれるビールで、下に行く酵母を使って作るのが下面発酵で「ラガー」と呼ばれるビールです。よく「IPA」とかって聞くでしょ、あれは「India Pale Ale」の略で、18世紀頃にインドにいたイギリス人のためにホップを大量に投入して劣化を防いだところから付けられたそうで。
つまり、ホップの香りがより際立ったり、味が濃かったりする、色が淡い(pale)ビールのことを「ペールエール」というのだそうです。現在のクラフトビールはこっちが主流で、バイト先のビールもそっちが多いです。
で、こちらの梅ビール、その逆です。下面発酵のラガービールなんです。大手のビールメーカーはほとんどこちら。飲みやすさを追求したビールなんですね。やっぱり「シウマイにビール」とか、「唐揚げにビール」とか、「焼き鳥にビール」とか、ご飯と一緒、つまり食中酒として飲んで欲しいのが先にあったと思うんです。
当時の地ビールブームは下面発酵が主流でした。初めての地ビールブームなもんだから、大手のビールに近づけていったと思うんです。今のクラフトビールブームはいろんな味を楽しむ上面発酵が主流ですが、こちらはずっと下面発酵を守っています。
まだ早いと天の声
やっぱり飲み慣れた味を追求したい思いも強く、やっと飲めると思った、ら!
梅ビール、おやすみ…(泣)
おっえー、まじけやー、ってな感じで…。まだまだ飲めるのは先にとっとけ、って言われている感じがしました。田辺さんとの交流を深くしていけ、って言われている感じがしました。
確かにこれまで取材とか、ちょっと会ったときとか、でしか話せてなかったので、これほど膝突き合わせて話をするのは初めてかも。”戦友”とともに、3人で夜遅くまで話し込みました。期間限定で北海道と沖縄と長野と大分のクラフトビール、さらに田辺さんが醸造したビール2種、合計6種類を飲みまくり、3人それぞれの現況・未来を語り合いました。





doingの取り組み
梅ビールもそうなんですが、田辺さんの取り組みはそこだけじゃない、ってこと。「自然に大の字 あそぼーや」を立ち上げたことが大きいと思っています。
「あそぼーや」というのは、三方五湖という恵まれた自然を“体験”するプログラムを運営していて、これまで「seeing」だった観光の三方五湖に「doing」を、それもかなり早い段階(2002年~)で取り入れたものだから、先見の明というか、さすがというか。

「やるしかなかった」と言うのが田辺さん。でも、体を動かすことが好きなんでしょうね。やりたいことをする、というのがまずあって、でもそれはこの街を楽しくしたい、この街で楽しく過ごしたいという思いから、自分の得意分野とこの自然を融合させたんです。
ラーケーション?
今では「ラーケーション」をどう取り入れていくかが課題だと言います。ラーケーション? 初耳のこの言葉は、これから出て来るであろうキーワードで、ぶっちゃけて言えば「学びながら旅行をする」ってことですかね。ただ見て、ただ食べて、ただまったりして、ただお金を使う、という旅行ではなく、“学ぶ”という意識をもって旅行するってことですね、多分。“考える”ということなんでしょう。
以前のブログでも書きましたが『御上先生』の名セリフ「考えよう」を、教室だけでなく旅先でも実践することでしょう。読書するのも一つのラーケーションであったり、まち歩きをして知的好奇心を高めるのも一つのラーケーションであったり。「あそぼーや」でも自然との共生を考えたり、海山湖の生態系を知ったりするのも一つのラーケーションにつながるんでしょう。
こういう旅は、どうしても早起きしてしまうもので、朝4時に起床して、外をぶらぶらと歩きました。空気が気持ちよくて、ここは宿だったんだな、ここは空き家なんだ、ここはお店だったのかな、などなど見渡しながら、貴重なこの朝をブログ書きながら煙草をふかしていました。

同じ価値観の人

今朝、帰り際にまた話し込み、「あぁ、この人は同じ価値観の人だ」と思った次第で、もっと仲良くなるだろうと確信しました。自分も田辺さんも、「お金も大事だけど、それ以上に大事なことを優先する。だからいつもお金ないけど(笑)」という考え方。人のつながりを最優先事項にしているというか。
それが、宿の名前に現われています。PAMCOって、何の略かというと、
PAssion Movement COmmunication
なんです。情熱と行動と交流で人の輪を作っていく、そんな思いが込められています。素敵です。素敵すぎます。
田辺さんにとってその思いが顕著に表れたのは、ロードバイク(自転車)のイベントのとき。ボランティアスタッフが100人集まり、参加するレーサーに帯同する感じのボランティアレーサーを探したとき、嶺南エリアにいた50人が手伝ってくれたそうです。その人たちを前にして、感動に震えて涙したそうです。
みんな、田辺さんの人柄に寄ってくるんですよ。お金では得られることのない”仲間”というプライスレスな財産。同じ生まれ年だけど早生まれで一つ上の先輩。まだまだだなと、精進しようと思った一日でした。梅ビールはもうちょっと先の楽しみにしておきます。